債権(売掛金)を回収したい【1】財産の調査のイロハ

こんにちは 司法書士 山下隆之です。
今回は債権回収【1】財産の調査のイロハです
会社を経営しているとほとんどの社長が直面するトラブルの1つに、「売掛金をはらってもらえない」、「商品代をふみたおされた」といった債権回収の問題があります。

 

法律の世界では「債権者の困惑、債務者の優越」というコトワザがありますが、まさにその通りで債権者は困った事に弱い立場に立たされがちです。

債務者が、借りるときにあんなに頼んで頼んでくるので仕方なく貸した金でも、いざ返してもらう段になると債権者が「返してください」とお願いする羽目になったりします。

全くどうにも納得のいかない話ですが、実際にそこかしこで起こってしまいます。chousa

 

これは何故かというと、、急にかしこまった話でなんですが「、債権」とはそもそも「誰かに何かをする行為を請求する権利」でしかないからです。

人に○○してくれという権利だから、人が○○をしてくれないと、頼みこんだりお願いする羽目になってしまいます。

これと似て非なる権利が「物権」、代表的なものが所有権です。これは直接モノを支配する権利ですから自分の所有する「車」を運転しようが、売ろうが支配権があるので誰も文句も言いませんし誰にお願いをする必要もありません。

このように、売掛金債権、貸金などはすべて「債権」なので「誰かに行為を請求する権利」=相手方の履行が必要となります。

では簡単に法律話をしたところで肝心の債権回収についてポイントを整理していきます。

 

まず、債権の回収にあたって大前提があります。

「一文無しからは何も取れない」という残酷な事実を覚えておいてください。

法律の手続きを進めて裁判に勝ったとしても、相手が無一文では差押えをしても何も取れません。

ですので、債権回収の第一歩は相手の財務状況を把握することです。取れそうな財産をリストアップしていくことです。

 

では以下、財産調査のイロハについて解説します。

1.生活の場を徹底的に調査せよ

債務者のもっている財産を調査する場合、第一には生活の場の調査があります。

これには「仕事場」と「私生活の場」の2つがあります。これを出来るだけ過去から洗ってみるのです。

仕事場を調査するには現在の仕事を出発点にします。

債務者は会社である場合が多いでしょうから法人の登記簿を見るのです。
この場合、過去の履歴も記載される履歴事項証明書、すでに閉鎖している閉鎖登記簿も見ます。

すると過去の取締役、監査役、以前の本店や支店の場所などが判る可能性があります。

役員がわかれば債務者の情報が聞けるかもしれませんし、本店支店の所在地から判明していなかった不動産が見つかるかもしれません。

また、銀行口座は会社のあった地域で作っている事が多いので、後々差押え仮差押をかける際のめぼしが付けやすくなります。

「私生活の場」は今の住所にとどまりません。出身地には相続した不動産もしくは相続権として期待される親族の不動産があるかもしれません。

この調査をするには住民票を取って本籍地を調べ、戸籍をさかのぼって行けば分かります。

もっとも個人情報保護により、他人の住民票を取ることは原則として出来ません。

そのため調査をするには弁護士や司法書士に債権回収の依頼をして「事件」として依頼し調査を進める事になります。

 

2.財産を書類から財産を追う

生活の場が調査したらどのエリアを狙うかが分かってきます。そうしたら次は公的な書面で財産を調査していきます。

具体的に調査に役立つ書類は以下のものがあります。

ア.法人、土地や建物登記簿  (法務局:誰でも取れる)

イ.固定資産評価証明書  (市区町村役場:原則本人、家族しか取れない)

ウ.路線価、公示価格   (市区町村役場のホームページに掲載されてる)

エ.戸籍謄本、戸籍の附票、住民票(市区町村役場:原則本人、家族しか取れない)

個人では取れない書面はどうしても弁護士などに依頼して取得する事になるでしょう。

 

3.本人や関係者から聞きだす

財産の状況を一番知っているのは債務者本人です。

ですから第一には本人と出来るだけ接触をもって財産の状況を聞きだします。

あいまいな受け答えやいい加減な回答ばかりするかもしれませんが、接触回数が増えれば徐々に状況が正確に判明してくるものです。大きなうそのために小さなボロが出る事もあります

 

4.専門業者に依頼する場合

専門業者に財産調査を依頼すれば自分で調査するよりも効率よく財産を発見できるかもしれません。

取り立てる債権の額によっては検討する価値があります。

注意したいのは「業者」は玉石混交で下手に依頼したらあっちの筋の会社だったという事もありえます。

そうならないためには、弁護士事務所で債権回収の得意な事務所に依頼し、そこからの紹介で業者に依頼するなど安全な紹介をおすすめします。

5.法的な調査

民事訴訟法には財産調査に使える規定がいくつかあります。

もっともうまく使いこなすには経験が必要になりますのでどうしても弁護士や司法書士に依頼する必要があるでしょう。

ア.当事者照会
これは訴訟の提起を準備する段階で、当事者が主張立証に必要な事項を書面にて回答を求める手続きです。
訴訟提起の予告が必要になりいつでも使えるわけではありません。
イ. 文書提出命令
これは相手に関連する文書を提出するように裁判所が命令をすることです。もっとも訴訟が始まってからの手続きになります。
ウ.財産開示手続き
裁判で勝訴した場合など債務名義があれば強制執行ができます。

その時に債務者に対し財産開示を求めることが出来る手続きです。

相手が開示しなければ分からないのはその通りですが、ヒントが出てくるかもしれないですし、故意の隠匿は財産隠匿罪となる場合がありプレッシャーをかけることが出来ます。

 

【まとめ】

債権回収を成功させるには「一文無し」からは取れないため「財産の調査」が必要になります。

個人でも可能なこと、業者や専門職に依頼すべき事など出来る範囲は分かれますが、債権の額を考え費用対効果で手段を選択していく必要があります。